揮発製有機化合物の歴史

　アセチレンの塩素化で四塩化エタンを合成する際にわずかに五塩化エタンが副生するが，それを石灰で脱塩酸するとﾊﾟｰｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(PCE)が得られる．それを製造工程化し1952(S27)年9月に関東電化工業が日本国内第１号としてﾊﾟｰｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(PCE)の生産を開始した．追って1955(S30)年に東亜合成化学が２番手として生産を開始し，次いで1961(S36)年11月に３番手として呉羽化学工業が生産を開始した．

1952(S27)年のﾊﾟｰｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(PCE)の生産開始以降，ｸﾘｰﾆﾝｸﾞ溶剤としての洗浄剤は，その経済性，毒性の低さ，安全性などから，ﾄﾘｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(TCE)からﾊﾟｰｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(PCE)に代わって行った．特に昭和30年代以降はその需要が急速に上向いた．

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　　■ 戦後のパークロールエチレン（PCE）製造と使用
　　　　日本持ち込み：戦後になって進駐軍の米軍が，家族のクリーニング溶剤として日本国内
　　　　　　　　　　　　　に初めて持ち込んでいる．
　　　　日本１号生産： 1952（S27）年９月「関東電化工業」が日本で初めて生産を開始した．
　　　　　　　２号生産： 1955（S30）年　東亜合成化学が生産開始．
　　　　　　　３号生産： 1961（S36）年　呉羽化学工業が生産開始
　　　　使用用途　　：クリーニング溶剤，洗浄剤
　　　生産の傾向　： 1955（S30）年代以降その需要が急増. ～1970(S45）年以降横ばい
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４．日本国内における1,1,1-トリクロロエタン（1,1,1-ＴＣＥ）製造（戦後）

　1,1,1-ﾄﾘｸﾛﾛｴﾀﾝはﾄﾘｸﾛﾛｴﾁﾚﾝ(TCE)やﾃﾄﾗｸﾛﾛｴﾁﾚﾝ(PCE)の有害性が問題となったことからその代替品として登場し，金属洗浄やドライクリーニングの洗浄剤として使用された．しかしその後，地球温暖化物質であることがわかり1996（H8）年１月から原則製造禁止品目となり，現在ではほとんどが代替フロンの原料として用いられています．

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　　■　1,1,1-ﾄﾘｸﾛﾛｴﾀﾝ（1,1,1-TCE）の生産開始時期
　　　東洋曹達（現：東ソー）：　1970（S45）年に当時の山口県新南陽市に「1,1,1-ﾄﾘｸﾛﾛｴﾀﾝ」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　の製造工場を完成させて生産を開始．
　　　関東電化工業　　　　　：　1,1,1-ﾄﾘｸﾛﾛｴﾀﾝの商業的生産を1970（S45）年頃から開始．
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　化学メーカー各社は，1970（S45）年頃のほぼ同時期に，一斉に1,1,1-ﾄﾘｸﾛﾛｴﾀﾝ（1,1,1-TCE）の生産を開始した．これに伴ってﾄﾘｸﾛﾛｴﾁﾚﾝ(TCE)は，この1970（S45）年をピークに減少に転じ，またそれとともにﾃﾄﾗｸﾛﾛｴﾁﾚﾝ(PCE)の生産量も横ばい状態となって行った．

　土壌・地下水汚染調査や工事に携わっている技術者でも案外と知っていないのが，自分達がいつも慣れ親しんで報告書などの中で記述使用している「ＴＣＥ（ﾄﾘｸﾛﾛｴﾁﾚﾝ）」とか「ＰＣＥ（ﾃﾄﾗｸﾛﾛｴﾁﾚﾝ）」などの揮発性有機化合物が，日本国内では何時どこで誰がどのようにして製造を始めたのか，その経緯です．このことは普通の土壌・地下水汚染のテキスト資料にもそのような記述はほとんど見られず，あまり知られていません．これはこれまでのテキスト著者の多くが地質や地下水を専門とする方々であり，純粋な有機化学に携わっていた技術者による著者が少ないことにも関係するようにも考えられます．このため化学物質がすでに存在していることを前提に土壌・地下水汚染技術論が展開されています．

　日本国内でのＴＣＥの製造起源を質問して，すんなりと答えられる技術者がいましたら，その方はかなり豊富な知識と経験を持った真面目な技術者と言えるでしょう．多分多くの方は答えられないかもしれません．

　しかし自分達が論述対象としている化学物質が，どのような経緯を経て製造流通されたかは，基礎的事項として技術者としては知っておくべき問題と考えています．特に，揮発性有機化合物は何十年も前に地下浸透したものが揮発や分解もあまりせずに，そのまま地層中や地下水中に残留して現在問題となっている訳ですから，これら揮発性有機化合物が製造された過去の経緯を知ることは案外に有益です．なお文中の化学物質の呼び名は当時のまま用いています．

　　　　　　　　　　製造経緯の詳しい資料（関東電化工業）

　ﾄﾘｸﾛﾛｴﾁﾚﾝ（ＴＣＥ）など揮発性有機化合物開発の歴史経緯は，「関東電化工業株式会社」の社史に詳細でとても貴重な記述がなされています．同社は日本国内でのﾄﾘｸﾛﾛｴﾁﾚﾝ（ＴＣＥ）やﾃﾄﾗｸﾛﾛ（ＰＣＥ）の熾烈な開発競争にしのぎを削った会社であり，そのような会社でしか知り得ないような興味ある開発の歴史と経緯が書かれています．ここでは貴重な同社社史の記述を中心に引用し，その開発の経緯を述べます．

１．日本国内初めてのﾄﾘｸﾛﾛｴﾁﾚﾝ（ＴＣＥ）の製造（戦前）

　日本国内で最初にﾄﾘｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(TCE)の生産を行ったのは東亜合成化学（当時は北海曹達の社名）であり，戦前の1935(S10)年にただ１社，独占的立場で製造を開始した．しかしそれらはほとんど軍需向けの生産であり一般にはほとんど知られていなかった．当時のﾄﾘｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(TCE)の国内生産高は1942(S17)年に2,400ｔと最大を記録したが，戦争の影響もあり1949(S24)年には500ｔまで低下していた．

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　　　　■　戦前・戦中時期のトリクロールエチレン（TCE）の使用
　　　　　　　日本初生産：　1935（S10）年　
　　　　　　　製造生産　：　東亜合成化学（当時は北海道曹達）
　　　　　　　使用用途　：　軍需（1935年～1945年の10年間）
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２．太平洋戦争後のﾄﾘｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ（ＴＣＥ）製造（戦後）

　戦後になって２番手として関東電化工業が，1950(S25)年10月に商品としてﾄﾘｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(TCE)の生産を開始し，設備を整えた1952(S27)年3月から本格操業生産に入った．しかし当時は，工業用の洗浄剤としてﾄﾘｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(TCE)使用していたユーザーは大手企業のみに限られていて，それら大手企業へは先発開発の東亜合成化学が納入していた．このため，関東電化工業の初期の需要先はｸﾘｰﾆﾝｸﾞ店を対象にした顧客の開拓と普及が中心となって進められ，工業用洗浄剤としての利用は少なかった．先発の東亜合成化学も同様で初期はｸﾘｰﾆﾝｸﾞ店の開拓から始まったと伝えられている．なお，当時のｸﾘｰﾆﾝｸﾞ店では毒性の高い四塩化炭素（汚染指定物質）をｸﾘｰﾆﾝｸﾞ溶剤として用いていた．

　国内のｸﾘｰﾆﾝｸﾞ業界は戦前以来，石油系溶剤のほか洗浄剤としてのﾄﾘｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(TCE)の存在は知っていたが，戦時体制下では軍需のためその使用が出来ませんでした．

　戦後，ﾄﾘｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(TCE)の民需用の生産（東亜合成化学）で多くの業者が使用を開始したが，関東電化工業が生産を開始した1950(S25)年当時は，まだ初めて使用すると言う業者も少なくなかった．このﾄﾘｸﾛｰﾙｴﾁﾚﾝ(TCE)の需要は1950(S25)年6月の朝鮮戦争の勃発で一気に特需拡大した．

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　　　　　■　戦後時期のトリクロールエチレン（TCE）の使用
　　　　　　　　初期生産　：　東亜合成化学（戦前から継続生産）
　　　　　　　　生産開始　：　戦後1945（S20）年過ぎから生産
　　　　　　　　２番手生産：　関東電化工業
　　　　　　　　生産開始年：　1950（S25）年，本格操業は1952（S27）年
　　　　　　　　使用用途　：　初期の頃はクリーニング店の溶剤利用が主体．工場における
　　　　　　　　　　　　　　　　　部品など金属洗浄用途は戦後初期時は大手企業に限られた．
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